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「のっぺらぼうと天宿りの牙卵・弐ノ上」読了

  • Seo Ann
  • 2023年4月23日
  • 読了時間: 3分

更新日:8月29日

ネタバレ感想なので未読の方はご注意を。



里見透さんの「のっぺらぼうと天宿りの牙卵・弐ノ上」、読了しました。

相も変わらず、面白いに尽きます……!前作はどちらかといえば、荒魂の格好良さに惹かれて彼の動向ばかり記憶に残っているのですが(すみません主人公差し置いて)、今作で改めて刻雨のファンになってしまいました。冒頭の船酔いでげろげろしてるのとか、「法師が来たぞ──!」って言われて「ひえっ」てひよっちゃうところとか、踏み抜いた盥が足から外れないとか、……可愛いかよ!!!!!

ちょっとおドジな面があるとはいえ、でも荒魂と破落戸の諍いを止めるためにちゃんと声を張り上げられる胆力はある子ですよね(目立ちたくないという理由があるけど)。そのあと一気に冷や汗が出てしまうのは、等身大の若者っぽさもあるように思えます。

でも、刻雨ってかなり闇深い生い立ちなんですよね……他人と一定の距離を置いて、にへらとした笑みを貼り付けていて、でも内心は祟りばかり振りまく己を自己嫌悪している(ように見えた)。

……けど、作中で最も“生”に執着しているのは、刻雨のように見えました。望みもしないのに特異な力を持って生まれがゆえ、誰よりも平穏が欲しいと憧れている。人間にひどい扱いをされて、なんなら人間を深く憎んで仇為す存在になっても仕方がないと思うのに。さらには作中、「刻雨」を「刻雨」として見てる人がほとんどいない。飛鳥井の罪を、刻雨と重ねて彼を糾弾する。彼が神鹿を喰ったわけじゃないのに。

それでも誰をも呪わず、自死を選ばず、生きようともがき続けるのは、荒魂が幼き日に言った、「俺たちは、ただ生まれてきちまったから生きてんだ。どう生きようが自由なんだよ」って言葉が、自覚があるのかはわかりませんが、刻雨の中に結構根付いているのかな、なんて思ったりします。どんな生い立ちだろうが生きて良いんだって、肯定された瞬間だと思うから。

そして現在軸で、最も刻雨と対等の立場で接してくれる人ですよね。ふたりが合わなければ、きっと今の刻雨はないし、荒魂も死んでいたかもしれない。分かち難い関係にあるのに、なのに、人の姿を得たばけもの(刻雨)と、ばけものと呼ばれるようになった人(荒魂)という対比の構図を取っている……すごく、良い……。

「ばけもの」とは、いったいなんなのでしょうね。作中では、刻雨も荒魂も、幾度となくばけものと罵られるけれど、私にはそうは思えないし。読者としては欲深い飛鳥井一門こそ「ばけもの」と思ってしまいますが、はたしていかに……。

今作では、ちょっと仲違いもしてましたが、彼らが「相棒」として並び立てる姿が、次巻で見られることに期待したいと思います。(人と深く関わることができなかった刻雨が、みずから望んで「荒魂の相棒として釣り合いがとれるようになりたい」って思うの、最高に胸熱……!)

それと、美尾ちゃん、ひりひりした展開の中で最っっっ高に癒しでした……!かわいい……!読む前にTwitterで「荒魂と狐がイチャイチャしているらしい」というぼんやりとした情報を得ていたけど、これかっ……!てなりました。美尾ちゃんの次巻での活躍も期待してます。


面白かったです……!どきどきする時間をありがとうございました!

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