top of page

「少年よ、塵の中で躍れ」読了

  • Seo Ann
  • 2023年4月23日
  • 読了時間: 2分

更新日:8月29日

ネタバレ感想なので、未読の方はご注意を。




永坂暖日さんの「少年よ、塵の中で躍れ」読了しました。

遠い未来、小惑星衝突により地球は塵の膜に覆われ、陽の届かない薄暗い世界となった。世界各地の火山活動活が発化したせいで、有害な火山性ガスや粉塵が大気を漂い、防護服とマスク無しでは人間は生きられない。人々は地下に居住区を作り、汚染大気から逃れて生活をしている──という世界観だけでも、わくわくします。そこに「無剣」という、人間を殲滅するためにある分子機械の集合体が跋扈している……さらにわくわくする舞台設定です。

その世界観が醸し出す、ひりひりした空気を感じながら読むことができました。

人間に擬態できる無剣が行う無慈悲な殺戮。(無剣の姿を想像しながら読むとほんとに怖い。ぞっとする造形……)

〈広咲〉の主婦たちが部外者の和樹に向ける拒絶の冷たさ。(致し方ないとはいえ、故郷を失ったばかりの和樹はショックだったろうなあ……)

過酷な世界だからこそ、容易に他者と繋がれないもどかしさがあるのだなあと思ったり。

そんな中で「家族」を求める秋香と和樹の関係性は、冷たい世界にほんの一片の温かみを落としてくれたようでした。秋香がいなかったら、和樹は過去の辛さから立ち上がり、〈広咲〉に生活の基盤を築くことはできなかっただろうから。

ラストは未来への一歩だけでない、苦味のある最後だったように思います。(個人の感想です)。でも、それがこの小説の世界観らしい結びのように思いました。短い期間でも秋香とともにいた時間は、和樹に自らの足で立つ力を与えてくれたのだなって……。整備士として、きっと秋香のように、〈広咲〉で頼もしい存在になってくれるのでしょうね。


先が気になって、ページをめくる手が止まらず一気に読んでしまいました。

楽しい読書の時間をありがとうございました!

最新記事

すべて表示
泡野瑤子さんの「沈黙せしミランダの献身」、読了。

泡野さんの短編は、前作の「リンゴの恋が実るとき」も拝読しましたが、すごく好きだなあと改めて思った。どれも面白くて、一気読みだった。 文体と作風の冒険、と銘打ってある通り、色々なジャンルのお話が詰まっていた。長編小説の方も拝読してますが、ファンタジーだったり、SFだったり、ユ...

 
 
 
のっぺらぼうと天宿りの牙卵・奥台御晴野編弐ノ下、拾遺集、2冊読了。

少しずつ読もうと思ってたのに、読みはじめたら結果一気読みしていた。面白かったなあ。 刻雨は、芯のあるひとだなと思う。不遇な生い立ちだけど、生きることを諦めない。理不尽に打ち勝ちたいと、ずっと戦っている。その根幹に幼少期の荒魂に貰った言葉があるのだろうけど、それすら忘れて不遇...

 
 
 
「のっぺらぼうと天宿りの牙卵・弐ノ上」読了

ネタバレ感想なので未読の方はご注意を。 里見透さんの「のっぺらぼうと天宿りの牙卵・弐ノ上」、読了しました。 相も変わらず、面白いに尽きます……!前作はどちらかといえば、荒魂の格好良さに惹かれて彼の動向ばかり記憶に残っているのですが(すみません主人公差し置いて)、今作で改めて...

 
 
 

コメント


Copyright© Seo Ann All Rights Reserved.

bottom of page