「目覚め 墨染の うつし」読了。
- Seo Ann
- 2020年9月28日
- 読了時間: 3分
毎度のことながらどうせネタバレ含むのでタイトルにネタバレありって書くのやめました。( ´∀`)
感想文は自分の感想を書き散らしたいので毎度のことながらネタバレ含みます。未読の方はご注意を。
里見透さんの「目覚め 墨染の うつし」、読了しました。
他人から読み取ったイメージを描く能力を持った「うつし」という青年が主人公の短編小説。
その特殊な能力のせいで隔離され、閉ざされた一室で命令された仕事をこなすだけの、彩りのない日々。うつしは「本物」というものに憧れを抱く。そこにある事件の容疑者である少女が連れてこられ、その少女のイメージを写し取ろうというところから、うつしに変化が訪れる──。
はじめの一文から、物語の雰囲気に引き込まれました。日本語が美しくて……。
するすると読み進められ、あっという間に読了してしまいました。
主人公のうつしは、真っ白な髪、白い肌、白装束のいでたちをしているのですが、読み進めるとそれも意味を持って設定されたのかなと思ったり。他人との接触を制限され、言葉を交わすこともなく、黙々と仕事をこなすうつし。外の世界を知らぬがゆえに、おぼろげな意思はあるにせよ、誰の思想を塗り込まれたことはなく、また自分で深く思考することもなかったのではなかろうか。うつしの白は、彼が毎日仕事で向き合っているはずの純白の紙のようです。それに色を落とすきっかけとなったのが、少女の存在だったのかな……なんて。
「本物」に憧れ、少女のなかにそれを見出し、追いかける。意志を持ち逃げ出した檻から走り去るときに、少女を想い心が軋むと同時に、本物や自由への憧れや高揚に声が弾んでしまう心中の矛盾。同時に物語終盤、まっさらであった彼に初めてついた色が、血の赤と土埃のすすけた色というのがなんとも苦い。
たったひとり、追われる者となった彼が染まる色が、真っ黒でないことを祈りたい。うつしはずっと閉じ込められてて赤ん坊みたいなものだと思うから……やさしいひとに出会って、彩りのある日々を生きて欲しいなあと、読者である私は思うのです。アッ、でも人の記憶うつし取りながら強かに生きていきそうな気がしなくもない……!(笑
もし万一黒くなりそうなとき、引き留めてくれるのが少女との記憶や、彼女の中で見た本物の陽の光であってほしい……。砂漠への帰郷編とか……読みたいです……(願望)
山月まりさんの表紙、挿絵ともに、物語の雰囲気に最高にマッチしていました。カバー裏まで……最高でした……!
また、読了後に「景」という字に「ひかり」とルビが降ってあることが気になりすぎて、なんだそれはそんな読み方があるのかと思わずググってしまいました。
いわく、「景」は光のある状態をいうので”ひかり”の意味となり、光によって作られる”かげ”の意味ともなる、らしい。うつしが読み取っているイメージの光と影のあわいが表された一文字のようで、その言葉のチョイスがめちゃめちゃ好みでした。(作者さんの意図と違うこと言ってたらすいません)
てゆか、い、いいなその綺麗な日本語……、しゅき……!!
あと、P56,57の文字の演出が素晴らしかった。走るうつしの疾走感。焦り。高揚。段落や行間を調整することで読者を結末へと駆り立ててくれる。文字がびっしりと並ぶ小説という媒体で、視覚的に感情を揺さぶられるとは思わなかった。不意打ち……!
素敵な物語をありがとうございました!
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