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せんさんの「閉じた国のホロン」、読了。

  • Seo Ann
  • 9月20日
  • 読了時間: 5分

ネタバレ感想なので未読の方はご注意を。


もともとSNSの連載を追いかけていたので、物語の顛末は知っていたのですが。これは完全に私の記憶力の問題なのですが、前半部分がうろ覚えのまま最後まで読み進めてしまったので(先を知りたい欲が勝ってしまった…)、落ち着いて読めるときに通しでがっつり読むぞー!と決めていた作品でした。


ホロンという「希望」を見出すまでのダーシュナの絶望を思うと、胸が痛かった。四年も一人で手掛かりもなく放浪し続けたのだものね…確かに、ホロンの体に負担がかかるとしても、御使いの情報が欲しくなる気持ちはわかる。それは結果的にホロンを利用するということだけど、でも、記憶を失ったホロンの面倒を見たり、「ホロン」という名前を真剣に考えているダーシュナは、ホロンをただ利用するだけじゃなく、愛情があるようにも見えた。(アミアの存在とタブっているのかもしれないが…)


ケラとダーシュナの言い合いのシーンは、なかなか精神的にエグいものを感じた。自分の大切なものとどう向き合うか――諦めようとしていたケラと、諦めまいとしていたダーシュナ。向かい合うと、互いの存在がナイフみたいに痛かったのではなかろうか。ホロンをきっかけとして三人旅が始まったけれど、序盤は少しぎくしゃくしている。でも、ダーシュナもケラも、その言動を見ていると根は優しいひとたちなんだと感じることができた。


ホロンの名前の由来が、とても好きです。記憶喪失で、自分の中が「からっぽ」というのは、大概はマイナスな印象を抱きがちじゃないかと思う。人と比べて、自分は何も知らない。覚えていない。なにも持っていない――って。でも、ダーシュナはそれをホロンに「マイナスである」とは思わせない名前を贈った。これ凄くないか?その「からっぽ」に、これから楽しいことをたくさん満たしていけるって意味を込めること、本当に素敵な名付けだと思った。その由来を聞くホロンの表情の描写もとても良くて、ちゃんとダーシュナの意図を理解していて、未来に希望を抱くようなほわっとした表情だったように見えた。

せんさんの要となるシーンのキャラクターの表情、本当にすごいです。匠の技だぁ…!

あとごはん食べるシーンのホロンがどれも可愛すぎておいしそうで読んでるとお腹が減る…!


過去編冒頭の、ネイジュがメイとナーサを諭すセリフがすごく良かった。人との距離の保ち方に大変な苦手意識を抱く自分には、ボディブローみたいに痛くもあるのだけど、「ああ、そうだよなぁ」って自分を顧みるきっかけになる言葉だったと思う。この時点でネイジュ、ええと…12歳?(間違ってたらすまぬ)ネイジュ様、若くして達観していらっしゃる…すごいよ…


ケラとネイジュの関係がとても尊い。ふたりはそれぞれに、それぞれの事情があって、一緒に町を出るという約束が守られることはなかったし、悲しい別れ方もした。御使いに手を奪われたケラは、生きるために犯さざるを得なかった行為もあった。ふたりの間には時間も、共有できなかかった思いもある。だけど、それでもネイジュの、後ろめたそうなケラに「なにも損なわれていない」と言える愛情には、ほんとうにすごいと思った。そのひと自身の本質を見てるんだなって…だから言える言葉なのだろうな。これはまめすぷの時も思ったのだけど、せんさんの描写はそのあたりがとても丁寧で、優しくて、読んでいて安心するというか、あったかくなるんだなぁ…。私もこうありたい…。

だからこそ、そのケラのためにネイジュが自己犠牲に走るのは、読者としてはつらかった。そうじゃないよ、あなたがいなくなったら、ケラが喜ぶわけないよって…。ケラが諦めないでくれて本当によかった…。

大切なもの(手)を「諦めよう」としていたケラだが、ネイジュのことを「諦めたくない」と言った。その言葉に至る、ネイジュとの過去から現在にかけてのエピソードの流れが、感情移入しやすくて、読みやすかった。

それから、「外の者」としてダーシュナが軽んじられてるとき、不満そうな顔をしちゃうケラは、やっぱり優しい。つらいはずのことを「慣れてる」なんて言うけど、本当の意味で「慣れる」ことなんてないと知ってる人間の優しさだなぁと思ったりなどした。少しずつ打ち解けて、友達という関係を築いていく三人がほほえましかった。


「大切」なものと向き合うのは、時に難しくもあるなと思う。大切だからこそ、それが重荷に感じたり、手放してしまいたくなったりする瞬間はあるかもしれない。でも、いらない、と思ってしまった瞬間だけがすべてなはずがない。それまでそれを「大切」だと思ってきたことに、嘘なんかあるはずなくて。娘アミアを、笛を吹くために手を、取り戻したいと認めるに至ったダーシュナとケラに、どんどん感情移入しながらラストに向かって読み進めていた。

ラスト、それぞれが宝物を取り戻したシーンは、あの、めっちゃボロボロ泣いてしまった…!よ、よ、よかったねぇ…みんなよかったねぇ……!!

ホロンの話し相手として連れてこられたのがアミアじゃなかったら、きっとこの大団円はなかった。アミアの作戦、ほんと完璧だったよ…!

ホロンのからっぽだった器(ホロン)に、ダーシュナたちとの思い出が入って、ホロン自身の意思が宿り、みんなの宝を奪う側の存在だったという記憶も戻ったけれど、それでも自分を失わず、最後はきっと宝物で満たされた。そんなホロンが、ハタイの言った「いい風(ホロン)」となって、誰かに犠牲を強いて安全を得ていた閉じた国の未来を開いた――

この流れは私の推測でしかないけれど、主人公の名前の意味が、最初から最後まで丁寧に描かれていた物語だったなぁと思うなどした。ホロン、いい名前だなぁ…(作者様の意図と乖離してるかもしれない個人の感想です)


せんさんのお話は、ストーリー自体も面白くて大好きですが、登場人物の言動に、はっとさせられる瞬間がある。「閉じた国のホロン」は、児童書風ファンタジーと銘打ってあり、確かに多感な少年少女に触れていただきたい物語だなぁと思ったりなどした。きっと、誰かと関わっていく上での、大切な気付きを得られる気がする。そんな気がする。


とても面白かったです。

楽しい時間をありがとうございました!

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