※ネタバレあり感想「幻影譚」
- Seo Ann
- 2019年3月31日
- 読了時間: 4分
幻影譚、蒼の章、紅の章、読了しました。
カクヨムでの連載でこのお話を知り、それが本になる、と知ったときには本当に嬉しかった……!
そして本で読んで、改めて、好き!!!!とならざるを得ませんでした……。
ネタバレなしでは語れないので、ブログで叫びます。
未読の方は要注意。
カクヨムで初読の時からですが、私はもう冒頭で心をガッチリ掴まれました。「筆者」が語るというスタイルに私は今まで触れたことがなかったので衝撃を受けたというのもありますが、同時に、とても魅了されました。
「幻影譚」はファンタジーで、架空の物語であるはずなのに、「え? 史実?? え???」となってしまうような、とてもリアリティのある語り口。かと思えば、時折挟まれる、筆者のお茶目なところもとても魅力的で。
なんていうか、こう、井中さんて、架空のものを現実世界に落とし込むというのが、とても巧みな気がするんですよね……。私は少年がリュシエラ嬢のためにクリームを開発する過程がすごく好きなんですけど、「そうか現代の美容クリームの土台を作ったのはこの少年なのか……」とついつい思ってしまいます! そしてそれがのちの蒼の章ラストの大事件の核として使われているのも、もう、たまらんですわ……。
幻影譚に登場するキャラクターたちも、皆とても魅力的です! 筆者が語ってくれるそれぞれの背景を呼んでいると、自然と好きになってしまうんだなぁ……。カクヨムで初読の時は、断然ウリシェ、エヴェルイート、イージアスなどに目がいっていたのですが(もちろん今でも大好きです!!)、製本版を通しで物語に浸っていると、そのほかの人物たちにも愛着がどんどん湧いてしまって。少年、アウロラはもちろん、シリウス、アレクシス両殿下、春の一座のみんな、ユライとスハイル……どうしよう。みんな好きだよ……?←
発狂してシリウスを傷つけた父王が、アウロラの一言で剣を下ろして泣き出し、その後も「妹」に甘えるというシーンは、かなり衝撃的でした。父王は、アウロラをアウロラではなく、アリアンロッドとして子供のように甘えているのが、鳥肌が立ちました。そんな父を拒絶するでもなく、「妹」として受け入れるアウロラの絶望を、肌身で(読んでるから目で?)感じてしまったというか……。母にも(母にも事情があったとはいえ)距離を置かれながら過ごす幼いアウロラは、こうして祖国の滅亡を望むようになっていったのかと、彼女の絶望の一端に触れたようでした。
だからこそ、紅の章ラスト付近の、エヴェルイートに泣きながら本心を吐露するシーンは胸が詰まりました。
一方エヴェルイートのほうも、数々の苦悩があり、分かれてしまった瑠璃姫との心をも、イージアスにそれも「全部おまえだ」と肯定され、受け入れて。そういった過程があったから、エヴェルイートはアウロラの気持ちを理解することができたのだろうか……。
その紅の章のシーンで、エヴェルイートがアウロラに敬称を付けていないのが、とても印象的でした。
神子でも、忌み子でも、王配でも内親王でもない。
ただ「人間」として語らう彼らが、とても愛おしかったです。
ああそれと余談ですが、イージアスの「おれはおまえに会いたかった」は最高の殺し文句ですよね?(違う) 私はあれでイージアスに惚れました……←
それから、春の一座のカルタレス脱出のエピソードはつらかった……。少年がこうすべきとした「みんなで逃げる」に、そうできない人々もいて……少年がアウロラに放った言葉が、ブーメランの如く自分に帰ってくるというのがもう辛いのに、さらには花梨が、……!
のちの「賢人アスライル」の初陣が、こんなに辛いものであったのかと、とても衝撃を受けました。
カクヨム初読のときもそうだったのですが、私は物語の先を「こうなるだろう」みたいに予測しながら読むことができなくて、「賢人の初陣ならいい感じにいってみんな逃げおおせるだろう」みたいなぽや~っとした考えのもと読んでいたので、「ううううううそやろ……!?!?」ってなりました……(涙)今回だって既読だし、知っているのに、展開知っているはずなのにまた衝撃を受けてしまいました……。負傷したユライのその後も気になります。ユライと少年のコンビとても好きなので……。スハイルと山瑠璃姐さんも無事に逃げおおせているといいなあ……あのふたりには最後には幸せになってほしいのである……。
知っているシーンなのに、アウロラとエヴェルイートのやり取りや、少年の逃走劇には涙が浮かんだんですけど、それってたぶん私が井中さんの筆致が大好きだからなんですよね。
筆者が物語の背景を語るときは、学者然とした、無駄のない解説や、ふっと息抜きさせてくれるお茶目な雰囲気を。
明るい会話文はテンポよく、読者がそこに混ざれるように楽し気に。
ここぞというシーンでは、読者の感情を追い立てるように、短く区切り、言葉がすっと胸に入るように。
気が付けば、物語にどっぷり浸っているんだなあ……。
物語はまだ途中で、今後もイベントで続刊が出るとのこと。
ラストまで追いかけたいです。
楽しい時間をありがとうございました!
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