のっぺらぼうと天宿りの牙卵・奥台御晴野編弐ノ下、拾遺集、2冊読了。
- Seo Ann
- 2024年12月8日
- 読了時間: 5分
更新日:6 日前
少しずつ読もうと思ってたのに、読みはじめたら結果一気読みしていた。面白かったなあ。
刻雨は、芯のあるひとだなと思う。不遇な生い立ちだけど、生きることを諦めない。理不尽に打ち勝ちたいと、ずっと戦っている。その根幹に幼少期の荒魂に貰った言葉があるのだろうけど、それすら忘れて不遇に負けてもおかしくないくらい過酷な運命を背負ってるのに。竜胆との約束も忘れていない。その身を賭しても助けに行く姿は、すごく主人公だった。格好良かった。
雪鳴がいて、竜胆がいて、荒魂がいて、たくさんあがいた先に、普通の町人であった入れ墨の破落戸たちとも打ち解けていた。鳥居を建ててもらうほどに。半神半人の姿であっても、あの破落戸たちは蔑まなかった。なんならのちの短編で町の案内まで買って出てくれてた。刻雨のあがき続けてきた行動の帰結が、町の人の行動を変えたのかなと思うと胸が熱い。果ては敵対していた浮墨の対応だって、変容させた。まだまだ棘はあるけれど、いつか良き友になれたらいいな。ウキウキ君って呼べる未来が、来るといい…!
荒魂は相変わらずずっと格好いいし、登場するたびに安心感がある。ああ、このひとがいれば悪い事態になっても大丈夫、任せられるって思えてしまう。読者目線ですらそうだから、作中過去の部下たちはほんとうに信頼していたのだろうなって改めて思った。
だから、刻雨が祟る神に堕ちそうになったとき、駆けつけて来てくれたときの安心感ったらなかった。もちろん物語的に祟る神になったらバッドエンドで終わってしまうから堕ちはしないだろうと思っていても、やっぱりはらはらしながら読んでいて、彼の登場で緊張感がふっと緩んで涙出そうになってしまった。
刻雨がつらいとき、いつも荒魂がいてくれるのだなと思う。見世屋に囚われていたとき。不思議な時間軸だけど、磐座に籠っていた天千代のそばにも“でっかいあやかし”としていてくれた。ピンチの時には駆けつける。助けてくれる。でもそれらは刻雨が加護を与えていたから眷属的な幽鬼として存在できていたり、萬景で刻雨の助力があったからこその今であったりして。
不思議な縁で結ばれて、依存じゃなく、互いに背を預けられるような相棒になっていく。その心理描写が丁寧な物語だったなと思う。これからふたりで方々を旅して、もっと絆を深めていってほしいな。そして各地の名産品をくいだおれて欲しい。
御晴野編からは逸れるが、その荒魂の優秀さや彼の放つ安心感を実感するたび、新玉のことを思い出していた。
荒魂は“優秀”だった。影として優秀すぎる。部下が本物と取って代わることを望むほどに。一方新玉は国守の重責に耐えかねたのか政務を投げ出すようになり(無印読んだの随分前なので違ってたら申し訳ない)、政務のほとんどを荒魂が担っていくことになる。結果、国守としての手腕は完全に荒魂の方が上かのように周囲に映ったし、実際そうだったのかもしれない。生まれの貴賤の差はあれど、ほぼ同じ顔の、自分より優秀な人間がそばにいる。自分がやるより任せてしまった方が、物事がうまく、そして円滑に良い方向に向かっていく。…新玉、屈辱感とか劣等感とか、少なからず感じていたのではなかろうか。そこから自分の居場所を影に取られるのではないか、という恐怖ゆえに、帝領(違かったらすまぬ)との理不尽な取引に応じ…と、坂を転がるように自分を貶めていく。凡人である自分からすれば、新玉の(私の想像上の)心情にはわりと同情できてしまう。影にばかり任せてはだめだぞって、だれか真剣に尻を叩いてくれる人がいたらよかったのにね…
いうても身から出た錆であることは否めないし、しでかした悪事は最悪も最悪なので肯定は絶対にしないが…。
得手不得手で職務を分け合い、得手部分で新玉がしっかりと自信を育めていたなら、陰と陽というか、表と裏というか、いい感じで萬景をふたりで治められたのになあとおもうと、なんだか悲しい。
でも、新玉は荒魂がそばを離れたことで、事態が好転するのではなかろうかと思う。影に任せていたことをひとつずつ自分でこなしていく中で、自信を付けていけるといい。
別の世界線の話かもしれないが、商業版では、きっと萬景城で短いながらもいい語り合いができたのではなかろうかと思ったりする。荒魂は、主に背信する気などなかったと理解したのでは。だから最後、港までこっそり見送り(?)に来ていたのかな。自分を顧みる兆しのような行動なのかなと思うから、影に負けないようにと頑張ってくださるのではなかろうか。
そしていつか、仁駱山に刻雨と荒魂が帰って来たとき、荒魂が「なかなかやるじゃねぇか」って言ってくれるような国守になっていたらいいなあ。
そういう点では、刻雨は自己肯定感が低いながらも理不尽に抗うという芯があった。だから荒魂の相棒になれたのかなとも思う。こんどはちゃんと信頼して背を預けられる相手(主)ができて、よかったね荒魂…
話を戻し、拾遺集、すごく豪華だった…。短編が、たくさん!
概ね平和って帯に書いてあったけど、まさしく概ね平和であった。にやにやしてしまうものもあれば、心がヒュンってなる()のもあったりして…とくに、「前夜」は…これから起こる事態を思うと、穏やかな場面なのに滲み出てくる不穏さが…。
「晴雨」は、最高だった…。竜胆かわいい!刻雨もかわいい!表紙のイラストと題名から、もしかしてもしかする?と思いながら読み、最後やっぱり狐の嫁入りだ!ってなったとき、自分、ひとに見せられないくらいものすごい顔でにやついていたと思う。ありがとう、末永く幸せになってください…!
牙卵シリーズ、ほんとうにおもしろかった。なんどでも読み返したくなる。
楽しい時間をありがとうございました。
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